秋風月 [沢]
7月も終わり、はや8月となる。
暦の上ではもうすぐ立秋。
この頃から急に月日が早く過ぎるように感じだし、気付けば秋になり冬になる。
夏の終わりを感じ始めると寂しいものだ。
天狗平山荘に泊まり、夕陽を期待したが、空は血が混じったような不気味な色で早々に部屋へ戻った。
昼間は暑いが、朝晩は秋風を感じる。
剱岳も少しずつ秋に向かっているようだ。
小さな秋を見つける。
山荘でゆっくり寛いでいたら、先輩ガイドの訃報が入り、愕然とした。
ひとつの時代に生きた名ガイド。
自分が山岳ガイドとして専業になった頃、嫌味を言われたり、小言を言われたりして、小屋にその先輩がいたら一緒にいることを避けていた。
しかし、自分がガイドとして経験を積むうちに、少しずつ言われている意味がわかるようになり、酒を酌み交わすようにもなったし、さまざまなアドバイスを素直に聴けるようにもなった。
5、6年前だったか、ペアを組んで一週間ずっと一緒に剱岳をガイドしたことがあった。
「良くわかってんだから、おめーがメインガイドだ、先に行け!」と後に付かれると検定されてるみたいで超やり辛かった。
私自身の環境がここ数年で大きく変わり、酒を酌み交わすことはなくなったが、山で会えばいつも声をかけていただいた。
もう一度でいいから、昔みたいに怒られてみたかったし、いろいろ話もしたかった。
熊さん、ありがとうございました。
御冥福をお祈りします。
翌朝は天狗平山荘名物のラジオ体操をやって身体はスッキリ。
弥陀ヶ原へ降りて、チングルマの綿毛を見ながら、一ノ谷へ歩く。
前回の増水時と比べたら、かなり水量は少なめ。
でも、この暑い時期に冷たい水は爽快この上ない。
困難とは程遠い沢登りなのだが、気を抜かず丁寧に行動した。
光が入ると渓相は一気に変わる。
沢は雪と同様に変化が激しい。
来る度に楽しい場所だと思う。
天狗平山荘に戻り、美味いラーメンで身体を温めて下山。
下界に降りたら再び灼熱の世界。
まだまだ、暑い夏は終わらないようだ。
明日から剱岳へ戻る。
人の命を預かり山へ連れて行くという事の重大さを忘れずに!
「おめー!なにやってんだ!」と言われないように!
2023-08-01 17:57
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