立山は冬へ [剱立山]
11月中旬となると最後の立山ガイド生活が始まる。
4月15日、立山黒部アルペンルートの全線オープンから7ヶ月。
春スキーガイドと剱岳残雪ガイドから始まり、夏の剱岳ガイド、秋はまたスキーガイドでシーズンを終える。
長いような短いような、シーズンクローズが近づくと寂しいものだ。
立山の始まりと終わりだけは見届けたくて4/15と11/30は、どんな天候でも必ず現場にいるようにしている。
2450mにある天空の別天地は富山の宝。
沢山のお客様に見ていただきたい。
11/14から立山に上がる。
みくりが池はまだ凍っていないが、山は真っ白だ。
新雪がたっぷり降って快晴の中、普通は行けない剱岳の絶景地へ。
剱岳の存在は別格だ。
いつまでも変わらず、ここにあるだろう。
この時期の立山では、いろんな仲間達と再会できて嬉しい。
この頃はまだ雪は少ないが、素晴らしいロケーション。
しかし、吹雪で予定通りの行動ができなかった日々もある。
こんな悪天候の日こそ、学ぶべることは多いはず。
結果だけを求めると近道したくなるが、うまく行かなかった時間を大切にする方は山から歓迎されるだろう。
いつもお世話になっているキャラバンスキーチームの皆様もやって来た。
みくりが池が凍り出すと、そろそろスキーコンディションも整って来る。
同時に雪崩への警戒も怠ってはならない。
不慣れな方は、立山の地形を熟知したガイドを使って行動することを薦めたい。
そして、いよいよその日がやって来る。
場所を選べば、この時期としては奇跡的な沈降パウダーが楽しめた。
その日を待っていれば、必ずいつか時はやって来る。
立山閉山まで、あと6日。
訪れた皆様が笑顔で帰れるよう、あと少し頑張ろう。
この時期は、アルペンルート立山駅側は除雪が間に合わず運休となり富山に降りれないこともある。
私も家に帰れなくなり室堂に缶詰め。
運休からやっと富山に降りたら、今度は上がれないという。
やはり、今日も運休。
仕方ない。
扇沢から上がることにしよう(涙)
富山と室堂はこの時期、近くて遠い場所なのだ。
2023年11月30日まであと少し。
2023-11-24 09:32
真田の里へ [ハイグレードハイキング]
この週末は海谷周辺ガイドの予定だったが、日本海側は気圧の谷の通過で絶望的な天候になりそう。
転進先は無難な妙義エリアも考えたが、定番過ぎてあまりにも芸がなく、海谷山塊の代案としては場違いだ。
なので薮岩求めて信州上田へ。
岩薮好きな登山者が楽しめる山が数多くある上田は新幹線の停車駅でもあり、東京からのアクセスも良い。
西の妙義とも言われるが、趣は違う気がする。
上田は独鈷山が有名だが、この山にも様々な特徴的な登路がある。
まずはバリエーション入門的な帰望峰から竜王山を経て独鈷山へ。
沢を跨いで、枯葉ラッセルして苔蒸した岩稜を行く。
上田の街並みが眼下に見える稜は気持ち良いが寒風がきついアクセント。
楽しいチムニーから這い上がったりして、アップダウンを繰り返す。
帰望峰。
ラッペルしてコルに降りて、また登ると。
竜王山。
泥道を下降して、また登ると。
上田を代表する独鈷山に。
夜は…。
なんとなく惹かれて入ってしまった。
戦国時代のヒーローを真田幸村をコロッケにしたらしい。
次は猿飛佐助が修行したとされる角間渓谷へ。
3歩上がって2歩退がる的なズルズルの足場を騙し騙し登ると鬼ヶ城。
ここにはなぜか立派な鎖場がある。
鬼ノ塔。
ここはトラロープはあるが、なんとなく嫌な予感がして、スタカットで登った。
鬼ノ戸渡のトラロープはフィックス先が支点から外れていた。
何も考えずに荷重したらフリーフォールだ。
残置されたロープは絶対疑わなければならない。
我々は時間は掛かっても、ラッペルして安全圏に脱出した。
通過してから看板があったが、先に言ってくれという感じ(笑)
その後、ジャンクションピークを超えて、またズルズルの急斜面を上がる。
薮を超えて雲雀峰に到着。
周囲の山々には雪が載っている。
この辺りはまだまだ先に繋げられるスリリングな山が多く、今後も研究してみたいところだ。
参加されるお客様方には、この先に何が待っているのだろうというドキドキ感をたくさん楽しんでいただきたい。
そのためには、ガイドする側が足跡を追いかけるだけじゃなくて、常に開拓精神を持たねばならぬと思う。
下山後は、美味しい信州新そばを食す。
これは「幸村」という名前の3人前の量だが、予想より多くてお客様に手伝ってもらった。
上田を出て、上越に入ったら土砂降りの冷たい雨が続く。
冬の足跡が近づいて来た。
日本海側の山は、このまま季節は冬に移り変わるだろう。
今冬もたっぷり雪を楽しめるような気がする。
さて、そろそろ冬の準備をしよう!
2023-11-13 07:40
御前ヶ遊窟の旬 [越後]
会越国境山郡にある御前ヶ遊窟へ通い出してもう何年になるだろうか。
白い岩肌と黄金の紅葉は、来る者全てを圧倒する。
泥々の悪いアプローチを乗り換えて、ようやくこの景色に出会えることが素晴らしい。
あのアプローチが無ければ、このドラマは完成しない。
今回は3回連続して、御前ヶ遊窟を周回ガイドした。
今秋は特にアプローチの状態が悪く、連日神経が擦り減ることになった。
足場の悪いハイトラバースが連続するので、単純にロープを使う形式的なガイディングは通用しない。
悪場慣れしている信頼できるお客様とだけで来るべき場所だ。
水が少ない日は沢をアプローチしても良い。
1回目。
2回目。
3回目。
毎日コンディションが異なるので、ルートも変えて快適さを楽しんでいる。
古いリングボルトやナチュラルプロテクションも利用しながら、スラブを自由に楽しむことができる。
ただし、進むべき場所を間違えるとハマるのがスラブの怖いところだし、御前ヶ遊窟の全体像を良く理解した上で取り付かないと、単にフィックスと鎖と踏み跡を追う面白味のないことになってしまう。
いきなり現れる巨大な洞窟はロマン溢れる穴。
今回、私のブログを見て来たという方々が2組もいたので驚いた。
御前ヶ遊窟は有名だが、御神楽岳や前ヶ岳など会越国境山郡は岩薮好きには堪らなく楽しい場所だ。
この辺りを開拓した越後の岳人達に敬意を表する。
宿泊ベースは新潟で、食を楽しむことも大切。
クルマで一時間半くらいなので、毎日通っても苦にならない。
御前ヶ遊窟の前日は、メジャーなハイキングコースの角田山で登山の基本を講習。
今夏、剱岳をガイドしたお客様が、自分の登山を歩き方から見直したいということで催行した。
長い登山経験を積んできた方が、そのような気持を持つことに対して、私も自分を可視化し、更により良い知識と経験を身に付けなければならねと学ばせていただいた。
そして、更にその前日はここを訪れた。
この壁を登りに来たのではなく、前日に遭難した懇意の若者の足跡を探すために1人で来た。
静かで誰もおらず、ここで事故があったことすら信じられなかった。
ここは自分が30歳前半に初めて登りに来て以来、いろいろなルートを登って、ガイドとしても数々使わせていただいた巨大な石灰岩の岩場。
最後にガイドしたのは2013年だっただろうか、あれ以来ここを訪れることもなかったし、二度と来ることはないと思っていた。
昔は営業していたお土産屋さんの脇から踏み跡を降ると忘れられないことを思い出した。
もう30年近く前に、この壁を無事に登って展望台がある駐車場へ意気揚々と戻ってきた。
高齢の女性が一人で立っていて、「あなたのお母さんが、こんな所を登っているのを見たら泣くよ」と泣きながら声を掛けて来て、「罰当たりなことはやめなさい」「命を大切にしなさい」「こんなこと辞めなさい」と次々と言われて、返す言葉もなかった。
それまでも、一ノ倉を登って駐車場に降りて来ると観光客に声を掛けられることは何度もあったが、これほど真剣に訴えられたことは初めてで、いろいろ考えさせられた。
自分がやっていることは、世間からはそう見られるのだと。
この出来事は、自分の登山人生に大きく影響を与えたことは間違いなく、やりたい放題で何も考えず突き進んでいたそれまでのことを見直すキッカケともなった。
でも、自分はまだ山を登っている。
何度ももうやめようと思ったことはあるが、未だ続けている。
その後、山岳ガイドとしての人生を歩み、山を通じて皆様に楽しみと幸せを与えることを願っているが、今回のように明日が来なかった若者のことを思うと苦しくて仕方ないし、どうしたら良いのかもわからない。
まだまだ修行が足りていない。
2023-11-07 01:00