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御前ヶ遊窟の旬 [越後]

会越国境山郡にある御前ヶ遊窟へ通い出してもう何年になるだろうか。
春夏秋冬ここに来てみて、ベストシーズンはいつなのかを模索してみたら、間違いなく今が旬と思う。
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白い岩肌と黄金の紅葉は、来る者全てを圧倒する。
泥々の悪いアプローチを乗り換えて、ようやくこの景色に出会えることが素晴らしい。
 
あのアプローチが無ければ、このドラマは完成しない。
 
今回は3回連続して、御前ヶ遊窟を周回ガイドした。

今秋は特にアプローチの状態が悪く、連日神経が擦り減ることになった。
足場の悪いハイトラバースが連続するので、単純にロープを使う形式的なガイディングは通用しない。
悪場慣れしている信頼できるお客様とだけで来るべき場所だ。
 
水が少ない日は沢をアプローチしても良い。
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1回目。
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2回目。
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3回目。
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毎日コンディションが異なるので、ルートも変えて快適さを楽しんでいる。
 
古いリングボルトやナチュラルプロテクションも利用しながら、スラブを自由に楽しむことができる。
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ただし、進むべき場所を間違えるとハマるのがスラブの怖いところだし、御前ヶ遊窟の全体像を良く理解した上で取り付かないと、単にフィックスと鎖と踏み跡を追う面白味のないことになってしまう。
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いきなり現れる巨大な洞窟はロマン溢れる穴。

今回、私のブログを見て来たという方々が2組もいたので驚いた。

御前ヶ遊窟は有名だが、御神楽岳や前ヶ岳など会越国境山郡は岩薮好きには堪らなく楽しい場所だ。
 
この辺りを開拓した越後の岳人達に敬意を表する。
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宿泊ベースは新潟で、食を楽しむことも大切。
クルマで一時間半くらいなので、毎日通っても苦にならない。

御前ヶ遊窟の前日は、メジャーなハイキングコースの角田山で登山の基本を講習。
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今夏、剱岳をガイドしたお客様が、自分の登山を歩き方から見直したいということで催行した。
 
長い登山経験を積んできた方が、そのような気持を持つことに対して、私も自分を可視化し、更により良い知識と経験を身に付けなければならねと学ばせていただいた。
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そして、更にその前日はここを訪れた。
 
この壁を登りに来たのではなく、前日に遭難した懇意の若者の足跡を探すために1人で来た。
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静かで誰もおらず、ここで事故があったことすら信じられなかった。

ここは自分が30歳前半に初めて登りに来て以来、いろいろなルートを登って、ガイドとしても数々使わせていただいた巨大な石灰岩の岩場。
 
最後にガイドしたのは2013年だっただろうか、あれ以来ここを訪れることもなかったし、二度と来ることはないと思っていた。
 
昔は営業していたお土産屋さんの脇から踏み跡を降ると忘れられないことを思い出した。

もう30年近く前に、この壁を無事に登って展望台がある駐車場へ意気揚々と戻ってきた。

高齢の女性が一人で立っていて、「あなたのお母さんが、こんな所を登っているのを見たら泣くよ」と泣きながら声を掛けて来て、「罰当たりなことはやめなさい」「命を大切にしなさい」「こんなこと辞めなさい」と次々と言われて、返す言葉もなかった。
 
それまでも、一ノ倉を登って駐車場に降りて来ると観光客に声を掛けられることは何度もあったが、これほど真剣に訴えられたことは初めてで、いろいろ考えさせられた。
 
自分がやっていることは、世間からはそう見られるのだと。
 
この出来事は、自分の登山人生に大きく影響を与えたことは間違いなく、やりたい放題で何も考えず突き進んでいたそれまでのことを見直すキッカケともなった。
 
でも、自分はまだ山を登っている。
何度ももうやめようと思ったことはあるが、未だ続けている。

その後、山岳ガイドとしての人生を歩み、山を通じて皆様に楽しみと幸せを与えることを願っているが、今回のように明日が来なかった若者のことを思うと苦しくて仕方ないし、どうしたら良いのかもわからない。
 
まだまだ修行が足りていない。

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